Junan Chou Junan Chou

深海へ

体長16メートル。
1000メートルを超える深海に潜り、
1時間から1時間半に一度、
新鮮な空気を求めて海面に上がってくるという。

そして「クリック音」と呼ばれる独自の言葉を持ち、
数百キロ離れた場所にいる個体同士で会話をする

マッコウクジラの全てのスケールが規格外で、
僕は船長の解説をぼんやり上の空で聞いていた。

そんな僕が居る海上はどうなっているかというと、
海面に上がってくるマッコウクジラを追いかけて、
10隻を超える観光船が海上を右に左に飛沫をあげる。

2時間後、彼は静かに、大きな背中を海上に見せた。
呼吸をするたびに潮を高く吹き上げている。

たっぷりと酸素を体内に蓄えるや否や、

私たち人間は到底知り得ない、
深い深い世界へと還っていった。


location: 知床、北海道

to the deep sea, 2024

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Junan Chou Junan Chou

密かな楽園

life as it is / 生きるということは

台湾はとにかく“腹が減る国”だ。
その日、台北は生憎の雨模様。
しかも夜になるにつれ雨足は強まるばかりだったが、
僕の足は止まらなかった。

台北駅のほど近く、立ち並ぶホテルの裏路地に、
ある牛肉拉麺の名店があるという。

全身ずぶ濡れになりながら、その路地に辿り着いた時
僕は勝利を確信した。

location: 城中市場 老牌牛肉拉麵大王

THOSE WHO KNOW, KNOW, 2024

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Junan Chou Junan Chou

あの頃の私へ

life as it is / 生きるということは

台北市民の足は、網の目のように走る路線バス。
数えきれないほど点在するバス停に、
多くの人が降り立ち、
多くの人を乗せ走り去っていく。

屈指の観光地、迪化街近くのバス停にあの子は居た。
学校帰りであろう。少し疲れた様に、安堵した様に、
大きな荷物を持ったまま停留場の椅子に腰掛け、
バスが来る方向をじっと見つめている。

学校は楽しかった?
今日も1日よく頑張ったね。

大丈夫。
大人の世界もそんなに悪くないよ。
いつしか、幼い頃の自分を彼女の姿に重ねていた。

大きな音を立てて1台のバスが通り過ぎる。

そこに彼女の姿はなかった。

ONCE UPON A TIME, 2024

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Junan Chou Junan Chou

生きるということ

life as it is / 生きるということは

この日、台湾は建国記念日。
偶然迷い込んだ、台北市東門駅近くの路地裏。
そこには、祝日らしく閑散とした大通りとは
真逆の光景が広がっていた。

路地を埋め尽くす数の屋台と行き交う人たち。
頭上を飛び交う掛け声。まさに人の坩堝だった。

そこに彼は居た。

彼には目もくれず通り過ぎる人波のなか、
ただ黙々と鍋を磨き、深い売り声を響かせていた。

LIFE AS IT IS, 2024

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