深海へ
体長16メートル。
1000メートルを超える深海に潜り、
1時間から1時間半に一度、
新鮮な空気を求めて海面に上がってくるという。
そして「クリック音」と呼ばれる独自の言葉を持ち、
数百キロ離れた場所にいる個体同士で会話をする
マッコウクジラの全てのスケールが規格外で、
僕は船長の解説をぼんやり上の空で聞いていた。
そんな僕が居る海上はどうなっているかというと、
海面に上がってくるマッコウクジラを追いかけて、
10隻を超える観光船が海上を右に左に飛沫をあげる。
2時間後、彼は静かに、大きな背中を海上に見せた。
呼吸をするたびに潮を高く吹き上げている。
たっぷりと酸素を体内に蓄えるや否や、
私たち人間は到底知り得ない、
深い深い世界へと還っていった。
location: 知床、北海道
to the deep sea, 2024
あの頃の私へ
life as it is / 生きるということは
台北市民の足は、網の目のように走る路線バス。
数えきれないほど点在するバス停に、
多くの人が降り立ち、
多くの人を乗せ走り去っていく。
屈指の観光地、迪化街近くのバス停にあの子は居た。
学校帰りであろう。少し疲れた様に、安堵した様に、
大きな荷物を持ったまま停留場の椅子に腰掛け、
バスが来る方向をじっと見つめている。
学校は楽しかった?
今日も1日よく頑張ったね。
大丈夫。
大人の世界もそんなに悪くないよ。
いつしか、幼い頃の自分を彼女の姿に重ねていた。
大きな音を立てて1台のバスが通り過ぎる。
そこに彼女の姿はなかった。